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「経済学はビジネスの武器だ」 Vol.8 平成15(2003)年2月26日
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◆◇ 『日銀総裁選びに見る官庁の力学』 ◆◇
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┏━━┓ 24日に日銀の新しい総裁、副総裁が決まりました。
┃\/┃ 今日は、その選出について、霞が関の官庁の力学からみた解説
┗━━┛ をいたします。
管理人Sun
平成15(2003)年2月26日
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○現総裁の速水氏の評判
現総裁の速水氏は、総裁就任直後からその政策実行能力にいささか疑問
を投げかける人も多く、ある人にいわせると、季節調整などの経済指標の
基本的な概念も判っていなかったのではないか、あるいはもうお年を召し
すぎて、口の悪い表現ですが「ぼけ」られたのではないかとも噂されまし
た。
○生え抜きの総裁、旧大蔵、経企出身の副総裁
総裁には、元日銀副総裁の福井俊彦氏(富士通総研理事長)。同時に交
代する副総裁には、前財務事務次官の武藤敏郎氏と、内閣府政策統括官で
東大教授の岩田一政氏となりました。この人事は国会の同意を得たうえで
内閣が任命することになります。
○旧陣容は日銀主導
これまでの陣容は、日銀出身者の総裁の下に、時事通信出身の藤原作弥
氏と日銀出身の山口泰氏と、ジャーナリスト出身と日銀生え抜きの副総裁
がそれぞれ一名という体制でした。この陣容は、完全に日銀ペースの構成
です。これでは日銀の政策を外部から動かすことは極めて難しかったこと
が簡単に判ります。
デフレ脱却には、財政政策よりも金融政策の方がはるかに有効ですが、
その金融政策も、日銀が今まであまり取ったことのない新たな政策はでき
るだけ取りたくないという、官僚的な前例主義的な考え方を優先していた
ため大胆な政策を取れなかったというのが一般的な評価です。
その意味からは、この構成を崩したということはひとまずは評価しなけ
ればなりません。
○財務省:ひとまず満足か?
しかし、新体制は本当に革新的な体制でしょうか?今回は、それぞれの
出身母体にスポットライトを当てていきます。まず、武藤氏の出身官庁の
財務省について考えます。
日銀総裁は従来から日銀生え抜きと、財務省(旧大蔵省)出身者が交代
で就いており、その順番でいえば日銀生え抜きの速水氏の後の今回は、旧
大蔵省出身者が総裁のはずでしたが、実際には日銀生え抜きの福井氏とな
りましたので、一見財務省の敗北のように見えるかもしれません。しかし、
速水氏が総裁に選出された直後の平成10年4月の日銀法の改正で日銀の
政府からの独立性が増した現在、大蔵省としては、旧メンバーのように、
出身者がいない状態を脱しただけでもとりあえず満足していると考えて良
いでしょう。
通常の発想なら、財務省出身の副総裁ですので、次の総裁の有力候補と
考えるのが妥当です。しかし、武藤氏自身は、事務次官としては特に剛腕
といった評判ではなかったように記憶します。ですから、福井氏の次の日
銀総裁選びでは本命にはなり得ず、次回は他の財務省出身者がかわりに候
補になるのではないかと思います。
○内閣府:一見順当だが・・・
一方、内閣府政策統括官の岩田氏ですが、彼は、実は旧経済企画庁出身
ですが、内閣府の政策統括官には東大教授として、民間出身者枠で就任し
ました。報道されるところによると、いわゆるインフレターゲット政策を
強力に支持しているとされます。
旧経済企画庁は、従来、日銀法改正以前には、日銀政策委員を一名送り
込んでいましたので、こちらも順当だと思われるかもしれません。が、実
はその経済企画庁からの日銀政策委員のポストは代々旧通産省(現経済省)
からの出向者の指定席でした。
○経済省:引き続き影響力なし
このことを知る人はよほどの霞が関通なのですが、そういう意味では、
経済省は相変わらず影響力を失ったままで、内閣府(旧経済企画庁)は一
定程度以上の影響力を確保したといっていいでしょう。
当然、福井氏の次の総裁候補には、岩田氏は内閣府出身者ということで、
少々パワー不足と判断するのが適当でしょうが、岩田氏は学問も政策面も
共にこなす人であると聞きますので世論の支持があれば次はこちらかもし
れません。
○実は保守的な官庁のバランス人事
ちなみに旧大蔵省、旧経済企画庁が2名副総裁になったのですが、日銀
法改正以前の政府代表の日銀政策委員はこの二つの省庁から送り込まれて
いました。これだけですと、以前同様に政府からの影響力が強くなること
を意味しますので、日銀内部の不満は極めて強くなったでしょうが、総裁
を日銀出身者にしたことで役人的な発想によるバランスは取れています。
その意味では極めて保守的な人選です。
ただし、役人的なバランスが取れているからといって、それが日本全体
からみて現在の政策課題に十分対応できるかどうかはまた別なことです。
保守的な人選であることを考えますと、デフレ脱却を目的にしたインフレ
ターゲットの導入などの新しい政策が取られるかどうかについてはかなり
疑問です。
○新総裁には政策面での疑問あり
事実福井氏は、現在のデフレは、国際競争の激化などに原因があり、単
なる貨幣的な現象を超えた根深いものであるとして、インフレターゲット
のような「非伝統的政策」は取るべきではないと明確に述べています。(
参考リンクをご覧ください)
私はこの意見に賛成できません。いかにも日銀サイドからの責任逃れ的
な匂いがするのです。福井氏は、速水氏同様に、いささか日銀中心のかた
くなな発想に捕らわれすぎているというのが私の印象です。新総裁の政策
については、おいおい本誌で検討していきますが、そういうことを考えま
すとなぜ小泉内閣がこの総裁人事を行ったのかいささか理解に苦しみます。
正直申しまして、岩田氏がインフレターゲット推進派とはいっても、福
井総裁の下ではデフレ脱却は容易ではありません。
○参考リンク
【この人に聞く】福井前日銀副総裁:市場安定化が日銀の役割
http://dow.ecri.co.jp/column/news_selection/ns043.shtml
▽ ▽ ▽
編┃集┃後┃記┃
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最後までお目通しいただきありがとうございました。今回は、総裁内定
のニュースがありましたので、速報性を重視して、いささかまとまりがあ
りませんが官庁の人事といった側面から分析してみました。ちなみに日銀
はとりあえず官庁のくくりに入れてよろしいでしょうが、非常にお給料が
よろしいです。昔は都銀の上位行以上といわれていました。それでいてリ
ストラとは無縁ですから、本当にうらやましいことです。
今までの本誌の記事とは、経済学的な分析がないという意味で少し性格
が違っていますが、どうお感じになりましたか?この点について肯定否定、
ご感想やご意見を伺えればと思います。私のサイトの掲示板
http://sun.s15.xrea.com/bbs/wforum.cgi
または、電子メール
suns15xrea@clubaa.com
までお気軽にお寄せください。お待ちしています。
なお、本文中に「インフレターゲット政策」という用語が何回か出てま
いりました。これは、ひとことで言いますと、「デフレから抜け出すため
に、具体的に穏健な物価上昇率を定め、その達成を目指し日銀が国債を、
多く購入するなどの金融政策を採っていく政策」なのですが、詳細は、次
回の本誌姉妹メールマガジン『あなたも3分間でエコノミスト!』で取り
上げる予定です。こちらの方にご関心がもしおありでしたら、
http://sun.s15.xrea.com/mm/termsindex.html
からお申し込みください。以上、宣伝でした。
それではまた、次回にお目に掛ります。
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