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「経済学はビジネスの武器だ」 Vol.10 平成15(2003)年3月10日
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◆◇ 『坂井隆憲容疑者は大蔵省人事システムの犠牲者だ』 ◆◇
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┏━━┓ POSBEEでも、本誌がお勧めメールマガジンに選ばれ
┃\/┃ ました。これも皆さんのご支持やご意見のお陰です。
┗━━┛ どうもありがとうございました。
melma!、Pubzineに続き、POSBEEでも本誌が推薦されました。
『ちょっと腰を据えて、ゆっくり熟読したい方におすすめ。誰かと語る
ような気分で知識が身についていきます。あらすじが冒頭にあるので、途
中から購読を始めた方でも安心♪新聞だけでは物足りないアナタに。』と
いう推薦の言葉をいただきました。(すみません、今回は「あらすじ」は
読み切りですので、ありません。)
これからも、ご愛読くださる皆様に喜んでいただける質の高いメールマ
ガジンを目指してまいります。ご支援、ご愛読をお願いいたします。
さて、リクルート事件の江副容疑者への判決が下った同じ日、大蔵省出
身の当時自民党所属の代議士、坂井隆憲氏の秘書が逮捕され、続いて代議
士本人も逮捕されました。
私も、職業柄彼と多少の接触がありましたので、今回は、掲載の予定を
変更してキャリア官僚の世界や大蔵省の人事システムをご紹介し、坂井容
疑者の心理について推し量ってみたいと思います。
また、今回の内容と同様に、官庁の人事システムを取り扱った記事とし
てはバックナンバーの『日銀総裁選びに見る官庁の力学』があります。 U
RLはこちらです。
http://sun.s15.xrea.com/mm/arc/mm008.html
ご関心があればこちらも合わせてご覧ください。
管理人Sun
平成15(2003)年3月10日
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○私が見た坂井容疑者
私が坂井容疑者から受けた印象は、まず第一に、頭が切れるということ
でした。実際に、彼は法律に詳しい有能な議員という評判がありました。
第二には、つねにうつむき加減で、人の目を見て話をしない人だなあ、と
いう点でした。どうも私は人事には疎いようで、彼が国会議員として活躍
中にも、現在報道されているような、業者との癒着があったというような
うわさ話はまったく入ってきていませんでした。そして、全体的な印象は
決して悪くなく、むしろ控えめな感じがしました。あるいは、役人に対し
てはそう振る舞っていたのかもしれません。
○坂井容疑者の経歴:早大から初めて大蔵省キャリア官僚へ
坂井容疑者は、早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、大蔵省にい
わゆるキャリア官僚として入省しました。本人曰く、早大からは、初めて
の大蔵省キャリアだったそうです。
○キャリア官僚とは
キャリア官僚の試験というのは、昔は、国家上級職甲種、現在は、国家
I種試験といい、厳密な言い方をする場合には、その中でも法律、経済、
行政職合格者を特にキャリア官僚と呼びます。原則としてこれらの職種で
なければ、建設省などの一部の官庁以外では事務次官になれないのです。
いいかえれば、事務次官になれる試験区分の合格者をキャリア官僚と呼ぶ
わけです。
○給料と天下り
キャリア官僚とはいっても給料が特に高いということはありません。例
えば、地方公務員よりもはるかに長時間労働をしますが、彼らよりも給料
が高いということはありません。大学の同窓会に行っても断然給料が低い
のが役人です。確かに、官舎を安価で借りられますが、大半のものは安普
請ですし、官舎管理の雑務の当番が回ってきたり通勤時間が長かったりし
ます。一流企業とは比較になりません。
一部で次官経験者の天下りポストの問題などが取りざたされます。確か
に彼らの給料や退職金は高額です。が、局長以上になれるのは同期の中の
ほんの一部分です。大半のキャリア官僚は、50歳代前半になると局長の
一歩手前の審議官というポスト相当の官職を最後に退官します。そして、
自分の属する省庁が監督している業界の会社や団体に再就職するのです。
これが天下りです。
天下りは大変強い非難を浴びています。私自身は天下りなど頼まれても
するつもりはありません。しかし、50歳代前半で退職してから年金を受
給できるまでには間もありますし、第一、役人の給料では家も買えません。
(外交官は別です。彼らは在外勤務中は、日本にいるときの倍以上の収入
となります。その代わり、上下関係は厳しいようですし、通常は大した天
下り先はありません。)天下りという第二の人生がなければ、子どもの教
育費にも事欠いてしまいます。仮に天下りを禁止するならば、実質の退職
年齢が50歳前半という現在の人事制度を改める必要があるでしょう。
○サービス残業は月平均100時間以上
また、勤務環境も劣悪です。特に若いころ(課長補佐以下)はひどく、
一日の労働時間は、どこの中央官庁のキャリア官僚でも平均して13時間程
度ではないかと思います。私も、就職してから半年くらいは電車で帰宅し
たことはありませんでした。
そんなに残業すれば、さぞかしお金がたまるのではと思われるかもしれ
ませんが、残業代は官庁によりますがほとんどの省庁では月間 120時間残
業(大体これくらいが平均的な残業時間です)して、残業代は15時間程度
分つくくらいです。(なお、武士の情けで匿名にしておきますが、ある省
のある局では 100%つくところもあるようです。例の非常に権力の大きい
局です。)民間企業で、こういうことをすればサービス残業の強制で社長
が逮捕されてしまいますね。
ただし管理職になりますとこれはずいぶんと楽にはなります。民間企業
と異なり上に行けばいくほど時間的余裕ができるのです。(上に行けばい
くほど馬鹿になるとも申しますが・・・)
○坂井容疑者のたどったコースと大蔵省の人事システム
今も昔も財務省は、東大卒業者中心の採用をしています。その中では、
現在でも京都大学、一橋大学あたりは別として、私立大学ではいかに有名
私立とはいっても、処遇などの面で肩身が狭い思いをするといわれていま
す。では、大蔵省在職中の坂井容疑者のたどったコースはどのようなもの
だったでしょうか。
大蔵省では、入省一年目のポストから既に明確に出世コースが決まって
います。やはり一番は、人事などを司る官房秘書課や、予算を編成する主
計局への配属です。坂井容疑者の場合、最初の配属は、国際金融局ですか
ら最初のポストとしては特筆するほど良いポストではないと言えます。そ
れから後に歴任したポストも、予算編成を担当する主計局主査のポストを
除けばさほど重要なポストはありません。退職時の官房企画官というポス
トは、大蔵省の場合、政治家に転身する人間の最後のポストとしては良く
あるパターンです。
このような経歴を一言で要約すれば、坂井容疑者は大蔵省内では出世コ
ースには乗っていなかったといって良いでしょう。そして私には大蔵省在
職中に日の当たるコースを歩めなかったことがその後の彼の行動に大きな
影響を与えているように思えます。そのことについてご説明しましょう。
○誇張と出世コンプレックス
『自民党では、当選3期で部会長、当選4期で国会での委員長、党では
政務調査会副会長や副幹事長になることが希望のコースと言われています。
私は、お陰で委員会の筆頭理事・委員長をすでに終えました。この度政務
調査会の副会長に就任できたのも皆様のご支援の賜物です。心から御礼申
し上げます。
当選して4期目になると副大臣(今までなら大臣でしょうが、来年から
は省庁再編のため大臣ポストが減りますので、新設される副大臣というこ
とになるでしょう)、党では副幹事長になれると思います。』(自民党坂
井隆憲代議士紹介ページから引用)
この文章は、坂井容疑者本人の挨拶の文章ですが、色々な意味で興味深
いです。まず第一に、自分が政治家としてのエリートコースをばく進して
いることを強調していることです。しかも、自民党内のウエッブサイトで
の記述ですから、他の議員もみる可能性があることを考えに入れるとこれ
はずいぶんと奇矯なことではないでしょうか。
このような文章を、臆面もなく書き込むという心理はどのようなものな
のでしょうか。自分は自民党内で『希望のコース』に乗っているというこ
とを強調することは、やはり出世に関するコンプレックスの裏返しの表現
ではないでしょうか。
その次には、事実と異なる表現があることです。自分は「今までなら大
臣」になれたはずだが、大臣ポストが減ったために副大臣になるという記
述があります。
しかし、実際には、自民党では衆議院議員に当選して4期で大臣になる
ということは通常はありません。この発言も自分を実際よりもより大きな
存在に見せるための虚飾であろうと考えられます。また、このように自分
を繕うためにことさらに事実とは異なることを常に言い募ることで、ます
ます嘘の上に嘘を塗り固めていくことにもなってきたのではないでしょう
か。このあたりの事情は取り調べが進むにつれて明らかになってくること
でしょう。
○大蔵省の人事システムの犠牲者ではないか
かなり昔、さる宴会の席上で、後に大蔵省の大物次官と呼ばれるように
なった人が発言したのですが、「大蔵省では、東大法学部出身者の大学成
績の優の数と、公務員試験の成績で入省当時から出世できるものできない
ものがあらかじめ決められている」のだそうです。東大「法学部」の成績
というところがいかにも嫌みですが、それ以外の大学では問題にもならな
いと言いたかったのでしょう。
すると、坂井容疑者が郷土の先輩大隈重信の創設した早稲田大学の栄誉
を背負って初のキャリア官僚として希望に満ちて大蔵省に入省したその瞬
間から、実は役人としての栄達の道は開かれていなかったということにな
ります。このたぐいのペーパーテスト重視の話は、実は国立大学の学生に
は半ば伝説化している常識で、みな覚悟していることですが、彼は私立大
学出身者ですから、この手の話も入省後に初めて知ったのではないでしょ
うか。
彼は今太閤ならぬ今重信を目指していたのかもしれませんが、就職して
しまってから自分の出世の確率が、自分の能力とは無関係にあらかじめ限
りなくゼロに近く決まっていることを思い知ったとき、彼のショックは言
いようもなく大きかったのであろうと思います。そしてそのことで、人に
言えぬ複雑なトラウマと異常な出世欲とを抱くようになったからといって
それを誰も責めることはできないのではないでしょうか。
○私は坂井容疑者に哀れを感じる。
有名私立大学を優秀な成績で卒業した彼の人生において、キャリア官僚
として大蔵省にさえ勤めなければ、いたずらに虚勢をはって生きていく必
要はなかったのではないかと想像します。そしてその虚勢が彼の人生に不
可欠なものとなってからは、彼の人生行路も大きくかわってしまったので
しょう。政治家としてより高い地位を求めれば、自分の選挙活動以外に派
閥の活動や子分の政治家の面倒を見るために、それに応じて政治資金は必
要となるからです。
私は坂井容疑者の経歴や行動をみていると哀れを感じます。もちろん彼
が犯したと報道されている汚職は許すわけにはいきません。しかし、こう
いった大蔵省の歪んだ人事システムがなければ、あるいはこのように虚勢
をはる必要もなく、逮捕という政治家にとって致命的な末路をたどること
もなく、有能な政治家として生きて行けたのではないか、いささか汚職容
疑者に甘すぎるといわれるかもしれませんが、そういう思いを禁じ得ない
のです。
○参考リンク
自民党坂井隆憲代議士紹介ページのアーカイブ
(本人は既に自民党を除名されており、このページも削除されています。)
http://web.archive.org/web/20020602104014/http://www.jimin.jp/jimin/giindata/sakai-ta.html
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バックナンバー『日銀総裁選びに見る官庁の力学』
http://sun.s15.xrea.com/mm/arc/mm008.html
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編┃集┃後┃記┃
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最後までお目通しいただきありがとうございました。
また、最近たくさんのご意見、ご感想を頂戴しております。本当にあり
がとうございます。実は右手が腱鞘炎になってしまいまして、湿布を貼っ
て頑張っておりますが皆さんへのご返事が遅れております。誌上で恐縮で
すがお詫び申し上げます。
また、いただいたメールは、他の読者の皆さんにもご覧いただければ参
考になるだろうなと思われるようなお便りばかりで、感謝と共に読者の皆
さんの意識の高さや知識の水準に感銘を受けております。良い読者を持て
ることは本当に発行者冥利に尽きると言うものです。深く感謝しておりま
す。
そこで、今後電子メールでいただいたご意見などは、直接ご返事させて
いただくと共に、それだけではもったいないので、匿名とさせていただい
た上で、掲示板で他の読者の皆さんにご披露させていただきたいと思うの
です。よろしくご了承くださるようお願いいたします。
匿名でもご紹介させていただくことに問題のある場合にはその旨お書き
添えいただければと存じます。逆に、匿名ではなくぜひ名前を出してほし
いという方は、ぜひぜひその旨お知らせください。
こうすることによって、皆さんの意見を他の読者の皆さんにお伝えする
ことができ、さらに議論が深まるのではないかと期待しています。
また、次にありますアンケートにもお答えいただけると幸いです。また、
いつものように私のサイトの掲示板
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または、電子メール
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にも、ご意見いただければありがたいです。掲示板は最近、osaさんやF
RTさんが常連でおいでになっていて活気が出てきました。ありがとうござ
います。
それではまた、次回にお目に掛ります。
▽ ▽ ▽
ア┃ン┃ケ┃ー┃ト┃
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今回や、バックナンバーの『日銀総裁選びに見る官庁の力学』のように、
霞が関の官庁の人事システムなどに関する記事をどう思われますか。一つ
だけクリックしてください。
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