なぜ経済学がビジネスマンに必要なのか
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なぜ、この期に及んでビジネスに経済学が必要になったのでしょうか。経済学は、抽象的すぎて役に立たない学問だというのが一般的な受け取り方ですが、昨今の不況の影響でビジネスマンはそこまでヒマになってしまったのでしょうか。そうではありません。私なりの答えは、このページにあります。

MBAの経済学では教えてくれないこと

ビジネススクールのマスターコース(いわゆるMBA)では、経営学以外に経済学に関しても、Business EconomicsもしくはManagerial Economicsといったタイトルでカリキュラムに組み込まれています。通常、MBAコースで教えられている経済学は、ほとんどの場合、新古典派経済学に基づいたミクロ経済学を中心とした科目となっていますが、その中でも特に企業の生産、雇用などの意志決定に直接にかかわる講義が中心となっていることがほとんどです。例えば、需要の価格弾力性といった抽象的な概念から、独占、寡占、ゲームの理論といった分野までがそれにあたります。また、経営学そのものの思考法にも、価格調整を中心とした新古典派経済学の考え方は大きく影響を与えていますので、MBAを目指す学生の論理的思考の基礎体力作りにも貢献をしています。

MBAの経済学が想定していないリスク

しかし、これからの日本においては、ビジネスマンには従来のMBAの経済学でカバーされる範囲の経済学、あるいはもっと大胆に言えばMBAコースのカリキュラムで得られる知識だけでは不十分になってきました。その理由は、日本の経済や社会構造全体が変貌を遂げ、従来は理論経済学に属すると考えられていた出来事に関するリスクを負わなければ、他の企業との競争に勝てなくなってきたためです。

例えば、従来は、企業の活動が地域やせいぜい日本国内にとどまっていたのですが、今後、経営者の負担するリスクが、企業活動の越境化(海外との取引、海外進出等)、金融自由化によって増えるだけでなく、さらに、年功序列賃金制度が企業からも有能なサラリーマンからも不人気となりつつあることなどによりマネジメントの手法も変化していくなど、企業の内外共に従来の環境から変化つつあります。

政府の政策への対応

また、政府の現在の政策は、構造改革を進めて企業の競争力を高め、不況を克服しようとするものですが、その過程では、競争力に劣る企業は倒産に追い込まれることになると考えられます。これは、例えばついこの間まで行われていた大蔵省による銀行業界での護送船団方式と呼ばれたようなリスクを徹底的に回避することを目的とした政策とは大きな変貌を見せています。このように一言で言えば、企業が敢えてリスクをとらないと十分な利潤を上げていけない時代となってしまったのです。これはある意味では当然の状態なのかも知れません。しかし、従来の高度成長期からの右肩上がりの市場を信じてひたすらがむしゃらに進んでいけば良かった時代とは大きく環境が変わってしまったことも事実でしょう。

バブルへの対応

これ以外にも、企業経営の判断でも、多くの企業が経済学的な基本知識に欠けていたため、バブル期に大きな失敗を犯してしまったことは記憶に新しいことです。

バブルの絶頂期を他の企業と同じように、土地投機や、いまやほとんど死語となってしまいましたがマネーゲームに浮かれて過ごしてしまってからでも、例えば、景気動向指数やGDP(国内総生産)統計といった基本的な経済指標が読めたならば企業が負ったダメージは小さいものですんだことでしょう。実際に最近の不良債権問題で驚くべきことは、現在の銀行の不良債権はほとんどがバブル期を終えた後で新たに生じたものであることです。銀行業界のトップはほとんど経済学の知識がなかったとしか思えません。(銀行系のシンクタンクはたくさんあり、その中でも優秀な研究を行っているところは多いのですが、これらによる情勢判断がなぜ上層部に上がっていかなかったのかは、銀行経営陣の極めて日本的な組織の問題によるのでしょう。)

このようなことから、ビジネスマンにとって従来は必要なかった純粋に経済学的判断力が必要になってきたことがわかります。しかもこれらは、これまで述べたように従来の経営学の枠組みに収まるものではありません。これからのビジネスマンが必要とするのは、経営学の観点からの戦略的思考もさることながら、真にビジネスの武器となりうる実践的でかつ本格的な経済学の知識です。しかし、残念なことに現在の我が国では、評論家などのオピニオンリーダーも、政府を牛耳る官僚も、ビジネスマンもそういった知識には極めて乏しいのが現状です。むしろ経済学に疎いことを、たたき上げの実戦派の証拠であると自慢する傾向すら見られます。また、残念なことに、そういった知識を独占している学者のサイドにも一般に向けて訴えかけていく熱意に欠けているのが現状です。

モラルに欠けたMBAの経済学

少し話がかわりますが、MBAの経済学で、企業経営にあたって従来から重視されてきたのは、先に述べたようにミクロ経済学です。ところが現在のミクロ経済学の主流をなす新古典派経済学ではモラルの問題が頭から考慮に入れられていません。

ところが、昨今の日米の企業をめぐる話題のうち最大のものは、経営者のモラルの問題です。粉飾決算、自動車会社のリコール隠し、事故などの不祥事隠しなど、これらの問題が示すことは、経営者の脳裏において、アカウンタビリティー(企業の説明責任)やコンプライアンス法令遵守)といったモラルに大きくかかわる問題が(短期的な)利潤追求という目的によって脇に置かれてしまったことが大きな原因になっています。経営者だけではありません、官僚の汚職、機密費問題、天下り問題なども、プリンシパル-エージェンシー問題(代理人と依頼人の関係の問題)であると同時にモラルの問題である側面が強くあります。

しかも我が国の場合には、米国のケースに加えて日本的組織における個人のモラルの問題も重要です。長いものには巻かれろとか、バスに乗り遅れるな、あるいは上司の命令は絶対だといった権威主義的な行動をとることといった個人のメンタリティが経営者の道徳心の欠如と相まって不透明な企業風土を作り出してしまっています。これではビジネスマンが元気がないのも当然です。

しかもこの問題は、マスコミで論じられているような単に法令によって罰則を強化する法律家的なアプローチで事足りるような単純な問題ではありません。経営者のインセンティブと道徳的な行動がコンパティブル(両立可能)でなければ十分な成果が上がりません。

そもそもモラルとは単に儲かる儲からないを考慮に入れて考えることではないでしょう。従来の新古典派経済学中心のミクロ経済学では、このような経営者のモラルの問題の基本的な性質を取り上げて理論を基礎から組み上げることはありませんでしたが、私はこういった道徳にかかわる問題も経済学視点からは、市場メカニズム等と並んで重要なトピックスであると考えています。

マスコミ情報には頼れない

このように指摘すると、あるいは、自分は日経新聞や経済誌、いわゆる経営関連のベストセラービジネス書を読むなどして日頃から勉強しているから経済のことはわかっていると考える人もいるかも知れません。しかし、マスコミの情報に流されることが大変危険だと言うことは、バブル期の我が国の言論の状況を思い出せば簡単に判ることでしょう。また、景気政策に関する部署で課長補佐をして取材される側に立っていた私の経験では、当の新聞や雑誌の記者の中でも社会一般の知識は別としても、大学卒業レベルの経済学の知識がある人はまれだったと記憶しています。もちろん、記事は、記者が書いた後でデスクが手を入れますが、それでも簡単な解釈ミスなどは頻繁にありました。

簡単に言えば学問的裏付けが全くわかっていない人が書いた記事を、お茶の間やビジネスマンの読者がありがたがって読んでいるのが悲しいかな戦前から変わらない日本のマスコミの実情です。

また、日頃から、論理的な思考方法や説得に慣れていない人の場合はまだ害が少ないのですが、ビジネスコンサルタントなどのように下手に経営学などをかじり、クライアントの説得を業としている人からの現在の経済への発言を聞いていると、きわめて説得力があるかのように聞こえて実際には経済学の常識を無視した有害無益な提言を行っている場合が多いことには皆さんも驚かれているでしょう。

本サイトの目的

このような状況に一石を投じることを願い、本サイトは「ビジネスの武器としての経済学」と題して、エコノミストとして現実に強く関心を持ちつつ、ある意味で経済におけるオピニオン系のサイトとして、単なる時事用語解説に止まらないビジネスに役立つ経済学の知識をささやかながらも皆さんにお知らせしていきたいと考えています。また近日中にはメールマガジンも発行できればと考えています。

プロフィールにも書きましたように、過去の、官庁エコノミスト、大学講師、国際機関勤務といった経験から得た知識を活かして取り組んでいきます。思いばかりが先走り十分な知識をお伝えできるかどうか判りませんが、どうか皆さんのご支持をお願いいたします。


平成15(2003)年1月4日  本サイト管理人Sun


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Last Updated 4 January 2003