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「現代日本経済論」レジュメ(第7回講義使用)12.6.10教科書第4章「物価と市場経済」
0. なぜインフレが重要か?(P.149 「物価の動き」参照)
インフレ、インフレーション:一般的な物価の上昇を意味する。経済を構成する特定分野の特定の財・サービスの価格上昇のみのことではない。石油危機で輸入された原油の価格が上昇し、その結果日本全体の物価が上がったが、これは典型的なインフレである。一方で、特定の財・サービスが人気があって、値段が上がることはインフレとは言わない。(詳細は、後の講義で)
インフレの問題点:インフレが起きた場合、借金をしている経済主体は、返済金額が実質的に減少するため得をする。そのため、企業や家庭で借金に悩むものや、現在の日本のように財政赤字が累積している(この場合は、国の借金である国債の発行残高が多い)政府にとっては有利となる。
また、預貯金といった資産の実質的価値が下落するという問題がある。一方で、賃金で生活しているものにとっては通常賃金は物価と同じテンポで上昇するために問題は少ない。
預貯金や(物価にスライドしない)私的な年金で生活している老人などにとっては重大な問題だが、貯金も借金もまったくない人々にとってはさほど影響があるわけではない。(公的な年金は、基本的に物価にスライドして毎年金額が改定されるので問題ない。)
しかし、一生懸命に働いて貯金をしたものよりも、借金をしていたものの方が有利になるということはモラルを破壊する。少し違う例だが、第一次世界大戦後のドイツでは強烈なインフレが襲った。ある兄弟がいて兄は飲んだくれ、弟は勤勉であり、少ないながらも貯金をしていた。しかし、インフレのため弟の貯金は紙くずとなり、一方で飲んだくれの兄の方は、納屋に捨てずにとっておいた酒ビンが高い値段で売れもうけた。これでは働く気にならなくなる。
(1) 物価動向は景気のシグナル
景気が良い場合には、財やサービスが良く売れるため、その需給が逼迫し、物価が上昇する。一方、景気が悪い場合には、逆となる。
(2) 物価水準は構造問題のシグナル
各国の価格体系の中で、特定の財やサービスの価格が目立って高い場合は、何らかの経済構造のゆがみや非効率性があることを意味する。
我が国では、食料品、家賃などの土地関連財・サービスや、公的規制がある財・サービスが特に高価であり、ここに何らかの非効率性があることを示唆している。
1. 戦後日本の物価の動き(教科書「ディスインフレ時代」)P.124
・ディスインフレーション:本来は景気循環の過程の中で、インフレーションからは抜け出したが、デフレーションには至っていない段階(インフレの終息)をさすが、ここでは、特に、インフレが起きにくい状態を指している。デフレとは本来異なる。
・デフレーション(デフレ):社会全体の需要が社会全体の供給に対して不足なために生じる一般的な物価水準の低下現象。(特定の品目の値段が下がることはデフレではない。例えば、いわゆる「価格破壊」はデフレではない。)一般に財政が黒字で、貨幣量が少ない場合に生じる。最近の一般的用法では不況と同義に用いられる。
・デフレスパイラル:経済学的には、デフレが人々の今後の物価上昇に対する期待を下げ、その事がさらなるデフレを引き起こすことをさす。最近の用法では、景気の継続的な悪化をさす場合が多い。しかし、それは本来の用法とは必ずしも一致しない。
・終戦直後に、激しいインフレに襲われた。
・ 高度成長期から石油危機までは(1956年から72年)までは、消費者物価の毎年の上昇率の平均は約4.5%と、比較的高かった。
・ 2回の石油危機の時期(1973年から81年):約9.2% 非常に高い
・ 現在(1982年から99年):約1.5% 非常に安定
現在の物価の安定の原因
(1) 石油価格の安定:石油危機では石油価格の高騰からインフレになった。
(2) 円高の進行による輸入産品の価格低下:1985年プラザ合意以降の円高のため、原材料、原油などの海外からの貿易財が安く輸入できる。
(3) 人手不足になっていないため:失業率が低くなり、人手不足になれば賃金を上げなければならない。
2. 資産価格の激動
(1)フローとストックとは?
ストックとは過去からのフローを蓄積したもの。ある一時点における貯蔵量を言う。フローとは、ある一定期間に流れた量を言う。
お金を例に取ると、所得はフローであるのに対して、資産はストック。さらに具体的には、毎月の貯金額はフローで、その結果生まれた貯金総額はストック。別の例としては、ある工場の中にある生産設備としての機械はストックであり、その機械を買うための毎月の設備投資額はフローである。広くは、資産(株、土地、住宅、生産設備など)全体をストックと呼ぶ。
なぜ、この両者を区別するかというと、同じお金の形を取ってはいても経済学的には違う法則に則って動くため。(次項参照)
(2)資産インフレから資産デフレへ
第二次石油危機以降(1980年代)の我が国では、フローの価格(安定していた:卸売物価、消費者物価)と、ストックの価格(急激に高騰した:土地、株の価格)の動きは大きな乖離をみせた(教科書P.130)。このことが、結果的には現在に続く不良債権問題の発端となっている。
その理由は「過剰流動性」である。1985年(昭和60年)のドル高是正の各国合意がなされたプラザ合意以降の円高の進行とそれに対する日銀の円売りドル買い介入によるマネーサプライの上昇が原因である。これは、いわゆる「金余り現象」と呼ばれるもので、実務的な投資に向かわずに余った企業などの資金が投機目的で、土地、株式さらにはゴルフ会員権などに流れ込んだ。例えば土地を例に取るとP.233にあるように、1985年以降急速に不動産業に対する貸出しが増加している。この、貸出されたお金が不動産投機に回ったものと考えられる。
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