「現代日本経済論」物価と市場経済2
 Home   検索   サイトマップ   Mail 
http://sun.s15.xrea.com Economics for the business  
ビジネスの武器としての経済学入門 > 講義ノート目次>物価と市場経済2
サーチエンジンで検索する AND OR

「現代日本経済論」レジュメ(第8回講義使用)
12.6.24
教科書第4章「物価と市場経済」
3.日本的物価問題
(1)内外価格差問題
 外国と比較した場合、同じ品目やサービスが我が国では高く売られていること。特に、我が国で生産された製品が、輸出先の海外での方が我が国で買うよりも安く買えること。円高の進行によって一時問題化した。
 特に、工業産品は輸出入が可能であるため原則として大差ないが、農産物、食品やサービスなどには大きな較差が存在する。また、我が国でさまざまな規制がかけられている財サービスは諸外国と比較して価格が高くなっている。

 ただし、現在の$1=¥110という為替レートでは実際にはこの問題は存在しない。海外での生活の実感からはむしろ我が国の方が安く感じられる。そのため、P.135の「高い東京の物価」については、やや疑問あり。
・ 例:ビッグマックセットの価格(2000年夏:$1=\110)
   しばしば国際間の物価の比較に使われる。ただし、店員の態度、スピード、店舗の清潔さ等のサービスの質は東京が図抜けて良い。ちなみに、「平日半額」は日本のみの価格である。
東京600円、パリ、ロンドンやや高い程度、NYやや安い、オスロ(ノルウェー)850円程度、レイキャビク(アイスランド)1100円程度

・我が国は上記の国々よりも一人当りの平地面積が小さく、そのため土地を使用するサービスなどでは基本的に価格が高くなる傾向がある。それ以外の原因としては、一般的には、政府による輸入規制が行われているなどの競争が制限されている分野や我が国に特有のブランド志向がかかわる分野では、こういった内外価格差が生じやすい。(米などの農産物は前者の例。ルイヴィトン、ベンツ、BMW等のブランド品は後者の例。)

(2) 卸売物価と消費者物価の乖離
 高度成長期以降の日本経済に付きまとう問題。原因は、サービス業の生産性の向上が、製造業の生産性の向上よりも遅く、また、サービス業によって提供される「サービス」は、海外から輸入できないが、製造業によって提供される「財」は輸入できることによる。
 米国などと比較して、製造業は十分だが、サービス業の生産性の向上は不十分である。(例:マクドナルド、スーパーマーケットなどのサービス業の革新は常に我が国の外からやってきている。)

・消費者物価指数:我々消費者が毎日の生活をするために必要な財サービスの価格を示す指数。購入する割合に応じてウエイト(重み)付けがされている。1980年代以降も少しずつ上昇している。
・卸売物価指数:企業間で取引されている財の価格を示す指数(サービスは含まれていない事に注意)。こちらも購入する割合に応じてウエイト(重み)付けがされている。消費者物価指数には入っていない原油、鉄鋼などが入っているため、比較的為替レートに左右されやすいなど動きが異なる(教科書P.168図参照)。しかし両者ともに重要な指数である。1980年代以降は、極めて安定し、むしろ低下している品目も多い。

4. インフレの原因となる可能性のあるものについて
(1) デマンド・プル(需要)型インフレ
 一つの国の中の総需要が何らかの原因で総供給能力を上回ることから生じるインフレ。
 マクロ的な原因で生じるインフレ。我が国では、景気がよくなりすぎたことによって、失業率が極めて低くなりその結果の人手不足による賃金上昇により生じることが多い。また、過剰流動性インフレもこの形である。
 対処方法としては、財政支出を削減したり、増税を行う、金利(公定歩合)を引き上げるなどの緊縮政策(総需要抑制政策)を取る必要がある。

(2) コスト・プッシュ(費用上昇)型インフレ
 企業が生産に際して投入する財・サービスの値段が上がり、その上昇分を製品価格に上乗せすることによって物価が上がる形のインフレ。
 ミクロ的な原因で生じるインフレ。輸入された石油の価格が上昇することによって生じた石油危機時のインフレもこの形である。
 賃金の上昇について、厳密に言うと、何らかの原因で失業者がいるのにもかかわらず労働者の賃金が労働生産性の増加率以上に上昇する場合がこのインフレに当たる。我が国では原油価格上昇によって起こることが多い。(教科書では、人手不足による賃金上昇をこちらに入れているがそれはデマンドプル型であり、誤り。)
 簡単な対処方法はない。生産性を上げるための技術革新を行うとか、賃金の下方硬直性を取り除くなどの方法が考えられるが、直ちに有効なものではない。物価統制令や買い占め売り惜しみ防止法などによって物価を統制したりすることや、ガソリンスタンドの日曜祝日休業などによって原油消費を押さえたりすることは可能であるが対症療法である。

・円高・円安の物価に与える影響
為替レートの変動により円安ドル高となり、輸入物価全体が10%上昇(下落)したとすると(例:$1=¥100から$1=¥110と円安になる場合)
 ⇒国内卸売物価1.0%上昇(下落)、消費者物価0.8%上昇(下落)
 (産業連関表95年表により計算)

・ クリーピングインフレ(物価の忍び足上昇)
 1960年代以降生じたインフレである。かなりの失業が存在し、設備能力にも余裕がある状態(不完全雇用)にもかかわらず、年間に2から3%程度の目立たない率で物価水準が上がっていく形のインフレ。現代の資本主義社会では、需要供給の調整が、数量によって行われるが、その結果、「価格の下方硬直性」が制度化され、価格は下落することが少なく、傾向として絶えず上昇する。この、価格の下方硬直性が原因のインフレである。

・ 価格の下方硬直性
 財サービスの価格が一旦設定されるとその水準以下に低下することが困難になるという性質。労働組合が強くなって賃金が下落しにくくなったり、市場が寡占化され、企業の価格支配の力が強まったため廉売を行わなくなったり、あるいは商品のブランド化に伴って、製品イメージが崩れるなどの理由で廉売がしにくくなったりなどの管理価格化したことによって生じた現象。近代的な資本主義特有の現象で、教科書P.144の第二次世界大戦終了後に価格が下落しなくなった現象は、この価格の下方硬直性プラス景気対策などを行なう大きな政府化の結果である。

(3) 管理価格インフレ
財サービスの供給者である企業が、独占などにより市場支配力を強めると競争が行われなくなり、価格を思うように設定できるようになる。その結果、価格を釣り上げる。このような分野が多くなると、結果として管理価格インフレとなる。
しかし、この形のインフレは我が国では財部門では、輸入品の正規代理店制度など以外ではほとんど生じない。サービス分野では、理髪料金などが管理価格となっているが、それによってインフレが起きるほどの影響はない。

5. フィリップス曲線とは?
 物価と失業は、物価上昇率が低ければその一方で、失業が多く、逆に、失業が少なければ物価上昇率が高いという、あちらを立てればこちらが立たないトレードオフ(二律背反)の関係にあるという考え方。多くの論争を呼んでいる。
 景気がいい時は、失業率が低く、人手が集まりにくいので賃金は高い。一方で、不況の時は、失業率が高く、そのため賃金は安い。このように景気によって賃金が左右される。また、賃金は財サービスの価格を左右するので、景気が良ければ物価は上昇し、悪ければ下落するという関係を示した曲線。

6.その他の話題
(1) 調整インフレ
論者としてポール・クルーグマン(MIT教授)が有名。
 デフレ防止のために、適切な水準に物価上昇率を上げ、実質金利を低下させることを通じて、景気を刺激する政策。
 現在の不況を脱出するために、各種の名目金利は低く誘導されている。しかし不況のため物価は上昇せず、そのため物価上昇分を差し引いた実質金利は、名目金利が低いにもかかわらず高止まりしてしまう。そこで、物価を何らかの手段で引上げることによって(名目金利が一定であるという仮定のもとで)実質金利を引き下げようとするもの。

反論:
・ 実質金利は市場で決まる。そのため、政府が物価を上昇させた場合でも、全く同じだけ名目金利がシフトしてしまい意味がない。
・ 「インフレそのものに伴う問題」=所得配分の問題(前回講義済み)
・ インフレが起きてしまった場合、コントロールすることは難しい。
・ インフレとなれば円安となるが、それは、金融機関の対外債権の円評価額が上昇し、自己資本比率を一定に保つために金融機関はさらに貸し渋りをおこす。

実質金利・実質利子率:物価変動により金銭の貸借期間中に生じる貨幣の実質的価値の変化を差し引いた金利のこと。つまり、物価の上昇下降を考慮に入れた本当の金利のこと。
 計算方法としては、名目利子率から物価上昇率を引いて計算する。例えば1年間の名目金利が10%であるときに、その1年間で物価が3%上がれば、実質金利は差し引いた7%となる。

(2) インフレーションターゲット
金融政策の目標として2.5%などの穏当な物価上昇率を設定する政策。
1970年代から各国の金融政策当局は、石油危機などから急激なインフレの進行に悩んできた。その方策として、80年代まではマネーサプライを一定に保つことによって物価上昇を押さえようとしてきたが、80年代以降、従来は存在したマネーサプライと物価上昇率との安定的関係がなくなってしまった。そのため、90年代以降インフレ率そのものを政策目標とするようになった。
現在、英国、カナダなどが採用している。仮に我が国で採用したとしても政策に大きな変更が生じるとは考えられないため、不況対策としての意味はない。

平成12年夏休みレポート課題

以下の二つの問題の両方に答えてください。肉筆のレポートでもワープロで打ち出したものでも構いません。秋の第1回の講義の際に提出してください。
このレポートを提出しなかったからといって「現代経済A」の単位が取れなくなるという性質のものではありませんが、できる限り多くの皆さんの提出を期待しています。

1.現在の我が国の状態を前提として、景気にプラス効果を与えるものに○印、マイナス効果を与えるものに×印、どちらとも判断できないものに?印をつけ、それぞれの項目についてそう判断した理由を簡潔に書け。
(1)減税、(2)消費税導入、(3)公定歩合の引き上げ、(4)新空港の建設、(5)家計の貯蓄率引き上げ、(6)電力料金引き上げ、(7)海外の企業の国内サービス部門への参入、(8)社会保険料の引き上げ、(9)大幅な賃上げ、(10)労働時間の短縮、(11)円高、(12)光ファイバーケーブルなどの情報インフラストラクチャーの整備、(13)利用者の少ない地方の高速道路の建設、(14)労働者解雇による企業のリストラ、(15)地価の上昇

2.現在は、景気に明るい動きが見られるようになってきた。しかし、まだ力強さにはかける。そこで、(1)これまで不況の原因は何か?(2)また、景気を良くするために有効だと判断される政策としてはどのようなものが考えられるか。合計2,500字以上で書け。(本などからの引用は、極力少なくし、自分の表現をつかうこと。)

 講義に対する疑問、希望、意見などがあれば遠慮なく毎回のアンケートや電子メールで連絡してください。講義の中でお答えします。


物価と市場経済1  高齢化時代の財政1
このページのトップにもどる

Copyright © 2002 by Sun All rights reserved.
Last Updated 24 December 2002