「現代日本経済論」高齢化時代の財政2
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「現代日本経済論」レジュメ(第10回講義使用)
12.7.8
教科書第5章「高齢化時代の財政」
2.財政の問題(P.183)
(1)国債の二つの分類。
戦後の国債の発行は昭和40年不況時であり、特に、1973年の第一次石油危機後に本格化した。現在の、国債と地方債の発行残高(=国と地方の借金の総額)は600兆円を超える。
「建設国債」は財政法4条の規定により公共投資の資金に当てることができる国債である。一方で、「赤字国債(特例国債)」は経常的な経費をまかなうために発行される国債である。
建設国債は、港湾、ダム、橋、道などの形になるものとして残る一方で、赤字国債によってまかなわれるものはサービスであり、後世に形として残らないため無駄遣いであるとよく言われている。
 しかし、教育、医療、福祉に使われる費用は、例え病院や学校といった形のあるものを建設しても、その費用は定義により赤字国債でまかなわれることとなっている。これらは、経済学的にも意味があるが、一般の定義によると無駄遣いとされてしまう。したがって、「建設国債」「赤字国債」の区別には経済学的な意味はない。それよりも、後述するようにその使途が有効であるかどうかが問題。

・ 公共投資  政府固定資本形成(GDP比)7.8%(97年)← 9.2%(75年)
費用負担 国対地方 6:4
実施主体 3:7

(2)大蔵省主導の財政改革の問題点(P.188)
i)大蔵省の目的
 大蔵省の建前: 「将来の国民負担率を増加させないためには国債依存度を低下させたい。」
 大蔵省の本音: 「財政の弾力性を取り戻し、かつ国債依存を減らすことを通じて、歳出削減をしたい」
⇒しかし、歳出削減は、財政技術上の目的とはなり得ても、経済政策として国全体の目標とできるような性格のものではない。日本政府は国民の利益のためにあるものであって、大蔵省の利益のためにあるのではない。もちろん長期的には財政再建は必要であるが、過去97年の春に消費税アップなどの財政引締政策を取って景気が失速してしまった教訓を忘れてはならない。
 発展途上国の財政赤字が問題なのは、輸出産品の国際競争力がないことや、国内の民間による貯蓄が少ないことなどから、財政赤字が貿易赤字につながり、結果としてその国の通貨価値の下落を招き、通常ドル建てである国外からの借金などを返しにくくなるためである。日本にはあてはまらない。

ii)問題点
・ケインズ経済学に基づく景気対策に対する理論的批判は多いが、実証研究によれば現実に不況期の公共投資は景気浮揚に有効である。だから、需要不足で景気が悪化している時には、公共投資増加を通じた財政政策を活用すべきであり、そのための建設国債発行を躊躇すべきではない。
・国債が、現在のように国内で消化される限り、国民全体としての負担は増えない。国債の利払いや償還のために増税されても、それは国債保有者に移転されるだけである。(後述B)
・日本の貯蓄投資バランスは大幅な貯蓄超過であり、国債発行で政府の赤字が膨らんでも民間の黒字で吸収できる。政府の資金調達によって、市場の(長期)金利が上昇し、その結果、資金を借りにくくなって民間の設備投資などが行われなくなるクラウディングアウトは生じにくい。(後述C)

iii)「国債の発行は、家計にとっての借金と同じ」か?
よく政府の財政を家計にたとえ、我が国における「国債の発行は、家計にとっての借金と同じ」であるとしている説明がある。これは必ずしも正しくない。

・国債の発行が、基本的に国内だけで消化されている場合(日本のケース):
 ひとつの家庭に例えると、お母さんが、お父さんに借金をしたのと同じである。将来、借金は利息をつけて返さなければならないが、返したといっても、単にお母さんからお父さんへと元本と利息をつけた合計の金額のお金が動くだけである。もちろん、お母さんよりもお父さんのほうが豊かであるならば、それは、貧乏な人から金持ちの人へお金が利息をつけて動くことになり若干問題である(所得配分の問題)。また、誰も使わない物品(ジューサーミキサー、布団乾燥機や電気パン焼き機などならまだいいが、身分不相応な高級自動車などか?)を購入する、すなわち誰も通らない高速道路、港湾や農道空港などの無駄な公共投資を行うこと自体は無駄ではあるが、借金の返済によってお金が家庭の外に流出するわけではない。また、国外にお金が流出するわけでないのでつぎにのべる為替レートも関係ない。

・国債の発行が、国外中心に消化されている場合(米国や発展途上国のケース):
通常の「家計にとっての借金である」という例えが当てはまる。家庭に当てはめると、お母さんが、外部の銀行や消費者金融から借金をしたのと同じである。将来、利息をつけて返済するときには、お金が外に逃げていってしまう。つまり、家庭が貧乏になる。
また、自国の通貨が売られてしまうため、ドル安などの自国通貨安となる。今後、現地通貨安となることが明白な場合には、外国からの投資は行われなくなる。(米国への日本からの投資は、円をドルに替えてその国に投資を行うが、投資した時点と比較して、収益を回収する時点がドル安ならば、円での手取りが少なくなってしまう。)これは発展途上国にとっては致命的である。(実は、米国はドルが基軸通貨となっているため例外であり、極めて特殊なケースである。)

iv)クラウディングアウトや国債暴落の問題
 貯蓄率が非常に低い米国等にくらべて、我が国では民間部門の貯蓄率が高く、国債を発行しても(長期)金利が上昇しにくい。つまり、政府が民間から借金をすることによって、市場の金利が上昇し、その結果民間の設備投資などが行われなくなるクラウディングアウトを起こしにくい。IS-LM分析でいえばLM曲線が米国と比較して水平に近い。このことは、現在の公債が市場で非常に低い金利で消化されていることからも経験的にも確かめられている。
 財政の破綻とは、市場において、極端に高い金利でないと公債を購入しようとしない状態をさす。つまり貸し倒れの可能性が強いために高金利でないと誰もお金を貸そうとしない状態に国や地方の財政が陥ることである。しかし、現在の我が国の状況はそのような状態からはほど遠い。もちろん市場の状態は急激に変化するが日本人の高貯蓄率は短期的に変わるとは思われない。(最近の景気回復の局面で、一時的に長期金利が上昇したが、これは国債の追加的発行に伴うものであると考えることもできるが、同時に、景気回復自体に伴っての通常の上昇であるとも考えられる。)
米国や、ブラジルなどの発展途上国のように、国債を外国の投資家(米国の場合は日本の投資家)に多く購入してもらっている国にとって財政赤字は大問題であるが、我が国の場合は基本的に国内で消化されているため米国ほどの問題ではない。
これらのことを考え合わせると、我が国では、景気を本格的な回復軌道に載せるための公共投資をまかなう程度の国債の発行の余地はまだあると考えられる。

注意:過去数年のように、米国が好況で、日本が不況の場合でも、米国債のかなりの部分は日本の機関投資家が購入している。すなわち、日本は米国にお金を貸しつづけている。この状態は浪費家の夫をしっかりものの奥さんが支えているとよくたとえられる。

本日で前期の講義は終了です。おつかれさまでした。
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高齢化時代の財政1  財政の役割と仕組み
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Last Updated 24 December 2002