「現代日本経済論」金融機関と不良債権
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「現代日本経済論」レジュメ(第12回講義使用)
12.10.21
「金融機関と不良債権」
以前寄せられた質問
Q:就職先として金融機関を考えているが、@金融機関の将来性、A不良債権問題の解決策、B資産価格下落の理由について教えてほしい。

A:(1)銀行については、不良債権の問題があり当分厳しい。証券会社は、景気が回復するまでは厳しいが、今後伸びる。なぜなら、企業が従来は、設備投資などのための資金を調達する際に、銀行から資金をかりる「間接金融」に頼っていたが、今後は、証券会社を利用して社債発行や株式発行などによる「直接金融」が一般的になっていくことが予想されるためである。
今回の不況で銀行が自己の都合で貸し渋りを行っており、特に、最近、その一方で暴力的な取立てで問題となった中小企業向けの金融機関である「商工ローン」とよばれる金融機関には多額の融資を行ったことも明らかとなった。銀行から融資を受けられないため、やむを得ず高利の商工ローンなどに頼らざるを得なかった企業も少なくなかった模様である。これらにより銀行は企業からの信頼を大きく失った。

「不良債権」とは?
 金融機関から見て名目上は資産であるが、実際には回収が著しく困難な貸出金をいう。普通の状況でも生じるが、今回は、資産デフレ(=地価、株価などの資産価格が下落すること。)のため、バブル期の当時、貸し出しの担保に取った土地などが急激に減価したことにより、全金融機関にとって大問題となっている。

「間接金融」:企業が銀行から借り入れることによって資金を調達すること。
「直接金融」:ワラント債、転換社債、株式の時価発行によって資本市場から直接に資金を調達すること。

(2)即効性のある解決策はない。なぜなら銀行の不良債権は、土地などの資産価格が一時的に高騰したバブル期に採算が取れるかどうか分からない貸出が行われたために生じたものであり、少しずつ解消していくしかないためである。

(3)土地、マンション、株価などの資産価格は景気の動きなどに大きく左右される。住宅については更に人口問題にも影響される。現在は、景気が悪く、また、金融機関が土地購入の資金を貸し付けてくれないなどのことから、資産価格が下落しつづけている。(株価に関しては、最近上昇し始めている。)ちなみに、今後も土地やマンションの価格は下落を続けるものと考えている。

 なぜ、日本の金融機関はこのような苦境に陥ってしまったのか。
 第一には、規制が厳しく十分な競争が行われなかったため諸外国の金融機関と比較して競争力がなくなってしまったことである。第二には、バブル期の貸し出しが不良債権化してしまい、回収のめどが立たないためである。

1.過保護行政で守られた金融機関
 金融機関は、以前は、大蔵省の護送船団方式による過保護行政によって完全にコントロールされていた。

「護送船団方式」とは?
 金融自由化以前の大蔵省の金融行政のやり方のこと。金融業界にはさまざまな規制があるが、その規制を行う際に、経営効率の最も悪い金融機関の能力を考慮に入れて行う手法。具体的には、一行(一隻)でも落伍しないように、一番体力のない銀行でも生き残れるように、低競争力の銀行に合わせた規制を行うこと。金融機関同士の競争を制限し、我が国金融機関の低い競争力を作り出した根源であるとされている。
 現在は、金融行政はかなりの部分が大蔵省の手を離れ、金融庁等の手に渡っており、改善されている。規制についても自由化の方向にすすんでおり、逆にいえば、潰れるべき銀行はつぶしてしまう方針となっている。

ペイオフ:銀行が経営難で破綻した際、預金保険機構により定まった限度内での預金の払い戻しを行うこと。現在、特例により預金保険機構加盟銀行の預金は全額保護されているが2002年4月からは、我が国では預金者一人あたり1000万円が上限となる。この実施による金融機関への影響が議論を呼んでいる。

2.バブル経済と金融機関
バブルとは?
一般にいわれている「経済の基本的条件から説明できる以上に株価、地価が上がること。」という定義だけでは不十分。単なる投機のことだけをさすのではない。例えば、未だに日本の地価は米国の地価と比較して非常に高いが、一般的な定義では、このこともバブルとなってしまう。現在は日本の土地にはバブル的要素は既にないとされている。
 1636年にオランダでチューリップ投機が生じた。これは、チューリップをめぐるバブルの例である。この例でいうと、「人々はチューリップ自体には特に関心がないが、値段が上がりそうだと言われているので買い求める。すると、実際に値段が上がる。それを見て、人々は自分の予想が当たったとして更に自分の予想に自信を深め、更に買い求める。すると値段が上がる。…」という、「予想が予想を呼ぶサイクル」を経済学的にバブルとよぶ。
 
バブル経済:バブルの発生により、株価、地価などの資産価格が、経済の実態から離れた形(多くの場合、今後の値上がりなどを計算に入れた形)で大幅に上昇し、そのことによって、生産、投資などの他の経済活動を活発化させることをさす。

(1)日本のバブル期(1987年から1990年)
バブル発生のメカニズム
・プラザ合意(1985年)⇒急激な円高が生じ、輸出不振になり不景気となった。
⇒その結果、景気を良くするために金融緩和(金利を安くして銀行から金を借りやすくするなど)を行った。その例として、公定歩合(日本銀行から市中銀行への貸出金利)が年利5.0%から2.5%の当時の史上最低利率まで半減した。(なお、現在はさらに低く0.5%)

・87年から本格的なバブルの発生
 なぜか?⇒金融緩和政策が続行されたため。
 1987年10月19日月曜日、米国ニューヨーク証券取引所において株価が暴落した。これが、いわゆるブラックマンデーである。これが、世界的な連鎖株安を呼んだ。株価は金利と反比例して上下する。そのため日本が金利を上げるとさらに株価が下がる惧れがあった。そこで、日本が原因となって、世界的な株価相場の暴落とドル相場の急落を起こすわけに行かないと考えた大蔵省や日銀の判断により、日本経済にとっては必要以上に金融緩和が続いた。これが、原因である。

「株や土地を巡るバブルのメカニズム」
株価上昇⇒エクイティ・ファイナンス増加⇒企業の株式運用増加⇒株価上昇⇒…
株価・地価の上昇⇒株や土地の担保価値上昇⇒銀行の貸出増加⇒株価・地価の上昇⇒…

エクイティ・ファイナンス:転換社債、株式転換権付社債(ワラント債)など、いずれ株式に転換することができるという特典を持った社債を発行することによって企業が資金調達すること。社債とは会社が一般の投資家に債券を発行して、借金をするものである。借金である以上一定の期限で返済しなければならないが、株価が上昇していればこれらの転換社債などは株式に転換される。すると企業は借金を返済しなくてすむようになる。
 また、これは、株価が上昇するにつれて発行条件が有利になるのでよく売れ、発行自体も増える。ところが、これらによって調達された資金は、本来の用途である設備投資ではなく、再度、株式や土地などの購入のような用途に使用された。これはさらにバブルをあおった。

 上記のエクイティファイナンスは、銀行から借り入れる間接金融ではなく、直接金融である。このため、企業は、非常な低金利でも銀行から借り入れなかった。銀行は貸出先に困り、不動産業への融資に走った。これが、バブル崩壊を経て、不良債権の元となった。

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Last Updated 24 December 2002