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「現代日本経済論」レジュメ(第15回講義使用)12.11.25学年末試験について
5問の内、2問を選択して解答する記述式試験。ただし、問4と問5を同時に選択することは認められない。解答は論理的であれば、長文または美文である必要はない。細かな事実に関する知識は正確でなくとも減点の対象としない。出席をきちんとしていれば(がり勉をせずに)必ず解答できる内容である。試験範囲は前期、後期両方が対象である。
教科書第8章 通貨の問題について:グローバリゼーション下の円
1.通貨問題
(1)アジア通貨危機 P.326
タイ、インドネシアをはじめとするアジア諸国で、自国通貨価値の突然の暴落により経済が混乱したこと。
私の見解「従来、急速に成長してきた東アジア経済は、1997年7月から突如として変調を来たした。その主な原因は、海外から借入れた資金を、あまりに楽観的な予測を元に無駄に投資してしまったことである。その際、ヘッジファンド(ハイテク投資運用会社)などの短期的な投機資金が急激に流出した事が混乱を生んだ。
またその、いわばバブル崩壊の影響を増幅したのが脆弱な金融システムであった。しかし、東アジアは、経済の基本的条件は依然として整っているため、金融システムを安定させることができれば再び成長しはじめるであろう。」
・アジア通貨危機の発端はタイから始まった。(97年7月)そして、条件が似た東南アジア各国に広まっていった。ちなみに日本の不況は、こういったメカニズムによるのではない。(日本は、財政緊縮と銀行部門の不良債権の問題が中心の国内が原因の不況)
・1997年中に新興金融市場12ヶ国通貨平均で39%下落。そのうち、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイについては平均で80%下落した。
本来これらの国々は、財政も均衡し、貯蓄率も高く、マクロ経済面では順調に成長していたが、投機の対象となり破綻をきたした。
・投機は、金融自由化に伴う、銀行による短期資金の借り入れと、証券市場への投資資金を中心とした外国資金の急激な流入。本来短期資金で行うべきでない設備投資資金も次第に短期資金でまかなわれるようになり、変動に脆弱な体質となっていった。
また、被害が広がった理由は、固定相場制度過信、金融自由化の拙速な進展、銀行の経営に関する情報開示の欠落である。
・タイの例
i)90年代急速な金融自由化を進める。
ii)93年バンコク・オフショア市場(非居住者間の金融取引が自由にできるよう金融、租税などの制約を緩和し、国内金融市場と切り離された形で運営される市場)を創設。海外から短期資金が流入。
⇒かなりの部分が、不動産や株式への投機に使われる。
⇒地価や株価の高騰を招く
iii)ところが、国内の消費の拡大の結果、95年から、経常収支の赤字幅拡大。本来ならタイ通貨(バーツ)は切り下がるはずだが、ドルに対して固定相場制のため切り下がらず。ところが、もしバーツが切り下がると、既に行ってある海外からの投資はドルでみると減価する。そのため、海外からの短期資金の流入は慎重になる。
⇒ますます、タイ・バーツを皆売りたがる。しかし一方、固定相場制の元では、その国(この場合タイ)は一定の範囲内に相場を押さえるために為替市場に介入しなくてはならない。
・他国への波及
iv)タイ政府は為替市場で、ドル売りバーツ買いの介入を続けていたが、97年7月タイ政府は、耐え切れなくなり固定相場制から変動相場制に移行。その結果、一気にバーツ安が表面化する。($1=25バーツ⇒50バーツへ)
v)タイと似た、経常収支赤字、物価上昇、バブル崩壊の状況にある東南アジア諸国(マレイシア、インドネシア、フィリピン)の通貨に対しても、タイと同じことが生じるのではないかという思惑から通貨売りの連鎖反応が生じた。また、韓国等にも似たような動きが生じた。この余波で、ロシア、ブラジルにも問題が生じた。この両国は東アジアと異なり、経済的基盤は脆弱である。このように途上国の経済発展に大きなマイナスの影響があったが、現在ではほとんどの国でその影響は収まっている。
(2)新通貨ユーロの誕生(欧州通貨統合)
マーストリヒト条約では1999年1月には欧州統一通貨ユーロを導入し、最終的(2002年)には従来のポンド、マルクなどの通貨は廃止することとしている。
なぜ統一通貨が便利なのか。
⇒為替の変動のリスクや、通貨交換コストがなくなることのほかに、円を越え、ドルに対抗できる規模の経済圏を作り上げることも目的。
i)貿易や投資活動の活発化
例えば、ドイツとイタリアは為替相場の変動が非常に激しくドイツの企業が、イタリアから物を買い付ける場合に不安な要素が多かったが、ユーロ導入後は為替相場が安定し不安がなくなることで、貿易や投資活動、そしてユーロ圏内外からの投資も進んでくる事が予想される。
ii)取り引きコストの低下
ユーロ圏内の企業が行なっている取引の請求書がすべてユーロに変わるので両替手数料や、為替変動のリスクがなくなる。欧州中央銀行が試算した結果では、ヨーロッパ全体でこのへッジングコストは、GDP割合の約0.4%と言われており、このコストが無くなると言う事は企業にとっては非常に大きなメリットとなります。
iii)利子率(投資の際のリスクプレミアム)の低下
利子率が低下するので中心的通貨であるドイツマルク以外の為替変動に伴うリスクがなく企業の投資が促進する。
iv)安定した通貨
これは安定した通貨というより、安定した金融政策をヨーロッパが取って行けるという事です。今までは、アメリカのドルや、日本の円にヨーロッパ各国が振り回されてきた。ヨーロッパが一つの共同通貨として安定すれば安定した金融政策を取れるという事です。
(税務会計情報ネットTabisland http://www.tabisland.ne.jp/future/ より引用)
欧州統一通貨ユーロ:それぞれの国が採用するための経済的条件
種々の条件の中で、特に実現困難なのが財政赤字に関する、「政府の財政赤字がGDP比で3%を超えていないこと」、「政府の公的債務残高がGDP比で60%を超えていないこと」、の二つの条件である。
これは、財政赤字があれば、輸入超過になり、結果としてその国の通貨が安くなり、結果としてユーロ全体が弱体化するためである。
(3)ドルの動向
米国の経済は長い間好調であった。しかし、問題点は経常収支の赤字(輸入が輸出よりも多いことが原因)。クリントン政権下で、財政赤字は減少し、98年度に黒字に転換した。しかし、経常収支の赤字は減少していない。経常収支の赤字を、日本やイギリスが米国債を購入することなどによって対外資金の流入でまかなっている。仮に、外国(特に、大部分を購入している日本)が米国債を買わなくなったらドルは暴落する。我が国としては、米国に対して節度ある経済政策とドルの価値の維持を要求すべきである。ドルが暴落すれば、投資された金額の日本円換算額も暴落してしまう。
経常収支の赤字:
レーガン政権下の大幅減税・ドル高政策の結果。1982年から16年間赤字が続いている。当初は、財政赤字が原因とされていたが、黒字に転換した98年以降も減少しないことが明らかになっており、米国経済にとって大問題である。
2.不均衡下の円相場 P.328
(1)為替レートは国際収支の調整に有効なのか
ミルトン・フリードマンらが強く提唱した変動為替相場制
理論上、輸入超過となれば自国通貨安、輸出超過となれば自国通貨高となり、結果として、輸出入を調整する方向に為替レートが動くはずである。
⇒過去の我が国の実例では、著しく効いたという例はない。また、今回の東アジア経済の回復過程でも、為替レートが自国通貨安となって輸出に有利な条件となっても、そもそも輸出できる品物が農作物など直ちに増産することが難しいもののためあまり有効でない。
(2)変動相場制批判
ポール・クルーグマンによる批判
投機の存在により「金融市場は、為替レートを道理にかなった値から遠くに駆り立て、その過程で実体経済へ害を及ぼす。」
本来、為替が投機の対象にならなければ、固定相場制よりも長所が多いが、東南アジアの例にあるように投機の対象となる可能性が強い。
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